コーンパペンの滝~ラオス南部~
国道沿いの掘っ建て小屋でパンク修理を終え、
私は再びラオス人少女の運転するミニバイクの背にまたがった。
轟音を立てて流れ落ちるコーンパペンの滝。
普段は、悠々と穏やかに流れるメコン川だが、
ここでは一変して、凄まじい自然の威力を見せつける。
照りつける太陽の下、ぶつかり合う水の音、
弾けて飛び散ろうとする濁流を、後から追いかけて来た流れが、
上から覆いかぶさって飲み込んでいく。
「普段はあんなに穏やかなメコンがねぇ、、、」
世間の喜怒哀楽にはいつも我関せずという風に、悠々堂々と流れるこの大河は、
一瞬の激情を人々に見られ、急に恥ずかしくなって、
一刻も早くここを立ち去りたいと益々流れを速めているようにさえ見えた。
振り返るとラオス人の少女は、退屈そうな顔をして、木陰に休んでいた。
足元に置いた私のバックパックに、両足をちょこんと乗っけて、
どこか違う方向を見ていたが、私と目が合うと、「あっ、ごめんなさい!」
という顔をして、急いで足をバッグから下ろした。
「別にいいよ!」という意味で、私は、笑顔で首を小さく横に振ったが、
それが伝わったかどうかは、分からなかった。
私は、売店の方を指差して、「何か飲むか?」と身振り手振りで聞いてみた。
彼女は、大きく首を横に振った、、、「いらない!」。
ずいぶんと長い間、炎天下の国道を歩いたのに、私たちはお互いに、水一滴飲んでいなかった。
私は、売店でコーラとスプライトを買って、木陰に運んだ。
「どっち!?」
彼女は、また大きく首を横に振って、手でも「いらない!」という合図を示したが、
1拍の沈黙の後、人差し指でスプライトの缶をチョン!とつついた。
私は、スプライトとストローを手渡して、再びコーンパペンの滝が見える場所に戻った。
轟々と、すべてを掻き消すかのように、メコンはそこでぶつかり合っていた。
乾き切った喉を通るコーラの刺激が、まるで小さな滝のように、
自分の中でも流れ落ちているような気がした。