【完】1本とられた!~サフランボルの子供たち~

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~つづき~

2人の小さなお手手に5ドル札を握らせて、立ち去ろうとする私に、
後ろから、あの甲高い声が、こう呼び止めた。

「ヘイ、ジャッキーチェン!ストップ、ストップ!」

「えっ、もしかして、1人10リラってことかなぁ、、、!?」

私は、すぐには振り返らずにそう考えながら、
でも、「ジャッキーチェン」と呼ばれて振り返らないのも
アジア人として粋じゃないなぁ、とも思ったりした。

すると、2人の声は続いて、
「フォト、フォト!ねぇねぇ、photo、photo!」。

私は、もうすっかり、ダメな日本人観光客モードになってしまって、
ゆっくり何歩か歩みを返すと、2人から言われるがままに写真の
シャッターをパシャリパシャリと何度も押した。
ついでに、カメラを預けて一緒に記念写真まで、、、パチリ。

2人はすっかり上機嫌!!
紙と書くものを貸して欲しいと(身振り手振りで)言うので、
手帳とペンを預けると2人は道の端っこまで走って行って、
しゃがみこみ、何やら相談しながら一生懸命、自分たちの住所を書き始めた。

私は、少し離れたところから、その姿を見守っていた。

彼らが、耳打ちをしてクスクス内緒話を続けながら、
時どきこちらをチラリと窺う視線を投げているのを知ってはいたが、
私は、それにあえて気付かない振りをしていた。

「ちぇっ!いいように、やられちまった!」と、私は心の中でつぶやきながら、
この小さな完敗にそれなりの満足を覚えていた。

「はい、できた!」
子供たちから手帳とペンを受け取ると、2人は「バイバイ!イキ(2枚)!イキ(2枚ずつね)!」
と大きな声で叫びながら、坂の小道を全速力で駆け上がって行った。

2人に大きく手を振って、坂を独り下りながら、「どれどれ、ちゃんと住所を書けたかな!」
と思って手帳を開くと、、、私は自分の目を疑った。あっけにとられて立ち止まり、後ろを振り返った。
しかし、そこにはもう子供たちの姿はなかった。

なんと、手帳の中にはさっきの5リラ札が2枚!!
2人が住所を書き込んだページの間にしっかり挟みこまれていた。

こりゃあ、負けた!そう来やがったか!!!

町の中央広場に降りる坂道で、空を仰ぎながら、思ったことはただ1つ。
「あ~ぁ、オレは、ちっちぇえ。」

こども字のいびつなアルファベットで書かれた住所の横には、力のこもった丸印がしてあって、
丸の中にはこう書かれていた、、、「イキ!(2枚)」。